癌治療のありかた −癌と紫イペ−
What cures for cancer should be
−Cancer and IPE ROXO−
関西医科大学 第一外科 講師 川口雄才
 わが国における平均寿命の推移は、1921年では男性42.06才、女性43.20才であったが、2000年には男性77.64才、女性84.62才とこの80年間で約2倍近くまで延びている。この平均寿命の延びには、生活環境や労働衛生の改善、そして医療の向上などが考えられる。とりわけ医療の面では手術、麻酔の技術の向上、全身管理の向上など種々な面で発展を遂げてきたが、その中でも19世紀後半のパストゥール、コッホなどによる細菌の発見に端を発し、1929年にはフレミングがペニシリンを発見して以来の抗生物質の恩恵にはすばらしいものがある。抗生物質の到来は、あたかも医学が病気を治してくれるものと現代人は思うようになった。 
しかし、近年、癌に対する治療法として、手術、化学療法、放射線療法、温熱療法、免疫療法など様々な治療が行われているが、その臨床的効果は必ずしも十分とは言えない。また最近、民間療法、特に機能性食品の癌に対するbiological response modifier(BRM)が注目され、種々の物質が開発されているが、その臨床的効果も十分とは言い難い。現段階での癌治療は遺伝子治療に夢を託しながらも暗礁に乗り上がっているのが実状だと思われる。 
この癌治療の行き詰まりの中、わが国における癌の死亡率は1981年以来第1位となり、3、4人に1人が癌で死亡されている。この様に、今現在癌で苦しんでいる多くの患者さんがいるのは事実であり、癌患者さんは再発・転移に苦しみ、そして死の恐怖に苛まれていると思われます。医師として、人間として死の恐怖に苛まれている癌患者さんを如何にして癒すべきなのか。ただ単に西洋医学では治療できないから死の準備をしてはと言えばいいのか。そして機能性食品の役割は如何なるものであるべきか。 
今回我々は、機能性食品である紫イぺを術後補助療法として併用し、また末期癌患者さんに投与することにより、その効果を検討すると共に、これからの医師の癌治療のありかたについて考えて行きたいと思います。 
当科での癌治療方針は、第一選択は手術であり、手術は切除不能症例に対してmass reductionを目的に手術を施行している。化学療法は術前・術後の補助療法として副作用を抑えながら抗腫瘍効果を得る方法、すなわちlow dose F-P療法(5-FU:250mg/day×4weeks,CDDP:<5mg/day×5days >×4weeks),low dose CPT-11療法(CPT-11:<8mg/day×5days >×4weeks)を施行している。また必要に応じて放射線治療や温熱療法を併用している。また免疫療法ではアマゾンの原生林の一つであるノウゼンカヅラ科のタベブイア属の樹木から生成した機能性食品である紫イぺ(900mg/day)を術後補助療法として、さらに末期癌患者さんに投与している。 
1999年6月から2001年10月までに紫イぺが投与された症例は67例で、男女比は1:1、平均年齢は56.3齢(25齢〜78齢)であります。その症例の内訳は、乳癌17例、胃癌13例、大腸癌13例、膵癌11例、卵巣癌4例、食堂癌2例、肺癌2例、肝細胞癌1例、肝内胆管癌1例、胆嚢癌1例、前立腺癌1例、脂肪肉腫1例でありました。また病期分類はstageUが1例、StageVが3例、StageWが26例、再発・転移例が37例でありました。 
stageW症例、再発・転移症例60例(判定不能3症例を削除)を対象に1年生存率を検討してみると、1年未満死亡者数19例、1年以上生存者数41例と1年生存率は68%でありました。この内現時点での長期生存者数は2年以上3年未満が9例、3年以上4年未満が6例、4年以上5年未満が3例、7年以上8年未満が1例の合計19例でありました。また現在のところ1年以上血液検査上、画像上癌が発見されない症例は5例でありました。 
今回の検討で癌を克服し完治した症例は現時点では経験していませんが、現代医学ではstageW症例、再発・転移症例の予後は極めて悪く1年生存率が数%であるのに対し、我々の検討では1年生存率が68%と良好な結果を得ました。これは現代医学が抗生物質の到来以来、病気になれば病気と闘わねばならないといった闘病の思想であるのに反し、病気と仲良く付き合っていくといった癌との共生という考え方が功を奏したのではないかと考えられます。しかし、癌と仲良く付き合っていくと言っても、人間には容易に受け入れ難いものがありますが、俳人の正岡子規は病牀六尺の中で「余は今迄禅宗の所謂悟りといふ事を誤解して居た。悟りといふ事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思って居たのは間違ひで、悟りといふ事は如何なる場合にも平気で生きて居る事であった。」と言っています。また機能性食品である紫イぺには全く副作用がなく、食欲増進作用や活力亢進などの免疫賦活作用があり人間の弱い精神面を支える一役を担っているものと思われます。 
これからの21世紀の医療を考えるとき、医学の進歩・発展のためには研究は必ず必要なものでありますが、その研究は身体面だけでなく精神面にまで及ばなければならないと思われます。1948年にWHOから健康の定義として、「健康とは、肉体的、精神的、そして社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病や虚弱さがないというだけではない」と提唱されております。故に医師は肉体的に、精神的に患者さんを癒すことを最重要に考えて医療を行うべきであると考えられた。